ネット検閲の始まりか?

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レッドカードを出す女性

私は2005年2月7日付のコラム「迷惑メール追放支援プロジェクト」で総務省と経済産業省がタッグを組んで始めた企画を酷評した。

実際、続報がないので、その政策がどの程度効を奏しているのかわからないが、たぶんほとんど実効性がなかったのだろう。

もしかすると単に会議を開いて報告書を出して終わったということも考えられるが、興味のある方は、総務省の政策評価-平成17年度、平成18年度の施策実施状況調書-「48. 情報通信利用の適正化、情報セキュリティ対策及び情報通信ネットワークの安全性・信頼性の向上」も見るといいだろう。
このプロジェクトのどの程度金がかかっているかわかるはずだ。

それで、このトンチンカンなIT政策の大元締めの総務省が今度は何を始めたのかと思ってみると、どうやら総務省の委託を受けた研究機関がネット情報の「ウソ発見器」なるものを開発するそうだ。

記事を読んでみて、よくもこれだけバカバカしいことを思いつくものだと思うとともに、将来的に日本は中国のように露骨な情報統制を始めるのかと背筋がゾッとするものがあった。

要するに彼らが言いたいのは、ネット情報も多くのアナログメディア情報と同じく政府が検閲しなければならない、ということだろう。
実際問題として、日本のメディア情報の多くは記者クラブを通した権力側の発表記事で埋められ、実質的に検閲されているに等しい。(マスコミがこのプロジェクトを批判していないことからもそれは証明できる)

その風潮の中で、ネット情報も実質的に権力側に不都合なものは「デマ」として排除したいらしい。
おそらく、ここでいう「デマ率」なるものは、ネット上で流れる多数意見が正しく、少数意見はデマということになるのだろう。

例えば中東情勢など、英米のメディア(APやロイターの通信社を含む)が言っていることは正しく、フリーのジャーナリストが言っていることはデマという判定がされることにもなるのだ。

それにも増してプログラムの裏を衝いた情報操作によっていくらでも真実がデマに、デマが真実になることになりかねない。
極めて乱暴かつ危険なことだ。

第一、現状でも英和、和英の機械翻訳でさえ極めて不正確なのに、全世界のウェブ情報を集めて翻訳し、それが正しいかまで機械が判定できるのだろうか。
それとも中国のネット検閲みたいに権力側に不都合なことだけ「デマ」表示(中国は対象サイトへのアクセス禁止)するつもりなのだろうか。

日本政府の役人は、中国や北朝鮮のように専制君主や単一政党による独裁政治が理想だと思っているだろうか。
それとも西側の自由主義国でこんなことを本気でするつもりなのだろうか。

そもそも、そういう情報リテラシーというものは人間が学習と経験によって身につけるものなのだが、日本では政府がそういうことを子ども(国民)に教えないで、機械によって判定したものを鵜呑みにさせようということらしい。

ちなみに、「この情報はデマ率95%ですが表示しますか」と言われた情報を発信した当人が情報があくまで真実であることはどこで証明するのだろうか。
こんなくだらないことに予算を使うならもっと違うことに使おうとは思わないのだろうか。

このバカバカしいプロジェクトは誰がどう見ても頓挫するだろう。
しかし、政府が意図するネット情報の検閲と国民に対する情報操作を目的とする政策は、奇麗事を羅列して毎年きちんと予算化されることだろう。

そして、これらの政策がこっそりと法案として提出されるとき、国民の目をそらすような大事件が起きるに違いない。

ネット情報「ウソ発見器」 総務省が開発へ (2006.8.26 朝日新聞)

真偽が見極め難いさまざまな情報が乱れ飛ぶインターネット。その中で、ウソや間違いらしい情報を自動的に洗い出し、ネットの利便性を高めるシステムの開発に総務省が乗り出す。

ネット上にある関連深い別の情報を探し出し、比較参照することで、情報の「デマ率」などを示す。
研究機関と協力し、2010年までの開発を目指す。2007年度予算では、まず3億円を要求する。

ネット上の情報は、何人もの目で事前に校閲された出版物などに比べ、誤った内容が少なくない。
信頼性を確かめるには、利用者が他の情報と付き合わせるなどの作業を行うしか手がない。

総務省が構築を目指すシステムは、この選別をコンピューターで自動的にやらせるものだ。ネット情報のウソや間違いの「発見器」といえる。
完成すれば、ある情報のデマ率を調べたり、ネットで検索するときに信頼性のある順番に表示したりできるという。「この情報はデマ率95%ですが表示しますか」などという注意表示もできるようになる。

扱う対象は、株式情報から国際情勢の解説、商品情報などさまざま。「この企業分析は適切か」「レバノン内政のこの記述は自然か」「オークションに出品されているこの外国電化製品の性能表示は本当か」などの疑問に答えられるようにするのが目標。

開発の焦点は、インターネットのなかから信頼できる関連情報を見つけ出せるかどうかだ。そのために、知識を関連づけて書かれた内容の意味を正確に判定する技術や高度な自動翻訳技術などを編み出す必要がある。

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