新政権がどうなろうとギリシャのデフォルトは避けられない

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スーニオン岬

昨日のBBCニュースで、「ギリシャ新民主主義党(ND: New Democracy)のサマラス(Antonis Samaras)党首曰く、ギリシャ総選挙の争点はユーロに残るかドラクマに戻るかである(Greek election is euro versus drachma, Samaras says)」ことが書かれていた。

しかし、仮に救済合意順守派(Pro-bailout parties)が総選挙で過半数を占めたとしても、ギリシャが今後ユーロ圏に残るためには、緊縮財政という名の元に、ギリシャ国民は100キログラムを超えるデブがボクサー並のダイエットを強いられるような生活を長期間にわたって送らなければならず、それに彼らが耐え忍び続けることは客観的に見て不可能と思われる。

対する救済合意反対派(Anti-bailout parties)の多くは、緊縮財政はイヤだけどユーロ圏には残りたいと、とうていドイツが受け入れるとは思えない主張を掲げている。

ユーロを捨て去ってドラクマに戻れと明確に主張しているのは共産党(KKE: Communist Party of Greece)だけだ。
救済合意反対派(Anti-bailout parties)が5月6日の総選挙以上の躍進をすれば、ドイツはその時点でギリシャをユーロ圏から切り捨てることを考えるだろう。

そうした場合、ドイツ自身も甚大な影響を受けるだろうが、メルケル(Angela Merkel)首相が、このままズルズルとギリシャ支援を続けるよりマシだと判断すれば、脆弱なギリシャの金融システムは間違いなく終わりを告げることになる。

救済合意反対派(Anti-bailout parties)が躍進した5月6日の総選挙の後、5月16日付のFinancial Times紙はGreek withdrawals stop short of panic(預金流出に揺らぐギリシャの銀行システム)という記事を掲載していた。

明日の再選挙の結果、ギリシャの新政権がどのような形で発足するかにかかわらず、当分の間ギリシャが立ち直れないと思った人たちは、外国に出した資金をギリシャに戻すことはないだろう。

それはギリシャの新政権やユーロ圏の指導者たちが何と言おうと変わらない。
自分の資産を守れるのは国の制度や指導者の言葉ではなく、自分の判断だけだからだ。

そうなれば、いくらユーロ圏の指導者たちがギリシャをユーロから離脱させまいと努力しても、内部からギリシャは崩壊することになる。

また、6月23日号(6月11日発売)の週刊現代にポール・クルーグマン(Paul Krugman)のインタビュー記事「預金流出、そして恐慌が始まる」というものが掲載されていたが、そこで彼は「(ギリシャがユーロを離脱するのは)おそらく早ければ6月だ。6月17日に予定されている再選挙で、財政緊縮策に反対している急進左派連合が大勝すれば万事休す。少しは引き延ばすことができたとしても、6月中に50%の確率でギリシャはユーロを離脱することになる。たとえ6月にそれが起こらなかったとしても、最終的には90%の確率でギリシャはユーロを離脱するだろう。」と述べている。(参考:The Plan for Greece on May 18, 2012 – The Conscience of a Liberal

欧州危機で世界の目がギリシャに向けられている中で、藤巻健史氏は6月14日付で「欧州より日本の国債が心配だ」と書いている。

南欧と日本、どちらもポピュリズム(衆愚)政治だとしても、南欧の場合は、世界中が注目し騒いでいる。

多少なりとも、世界の目というチェック機能がある。それに加えて市場という強力なチェック機能も働いている。長期金利が上昇し警戒警報を鳴らしている。

その結果、政治家もそれなりの危機感を持ち真剣に財政赤字問題に取り組んでいる。個人も危機に備えている。皆、シートベルトを締めて緊張しながら事態に対処しているのだ。

一方の日本は、世界の目というチェック機能がまず働いていない。さらにまずいことに市場が政治に対するチェック機能を果たしていない。

こんなに財政事情が悪いのに長期金利が低位安定してしまって警戒警報を発していない。だからマスコミも政治家も国民も、まだ大丈夫だと能天気でいる。

チェック機能が効かないところではバブルは想像を絶するほど大きくなり破裂の衝撃は大きい。それも警戒感が薄いところにショックが来るのだから大混乱が予想される。

だから私は南欧諸国より日本の方がよほど憂慮すべき状態だ、と言っているのだ。

私たちは国家破産状態にある今のギリシャの惨状を見て、将来、自分の資産と生活を守るためにはどうすればいいかを学ばなければならない。
一つの方法は橘玲氏が書いているように「来るべき時代の衝撃に備えて、国家と個人のリスクを切り離せ」ということである。

私は先月、そして来週にも香港へ渡航する。
最初はHSBC香港で新規に口座を開きたいという知人のアテンド(付き添い)程度が目的だった。

しかし、世界情勢が大きく変わってきたため、自分の資産運用の見直しも兼ねるようになった。
それが結果的に「Toward a dream-come-true『経済的自由への扉は開かれた』」となったのは嬉しい誤算だったのだ。

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Greek withdrawals stop short of panic (Financial Times May 16, 2012)
預金流出に揺らぐギリシャの銀行システム (2012.5.18 JBPress)

Greek depositors pulled an estimated 1.2bn euro from their bank accounts on Monday and Tuesday, according to Athens-based bankers, but senior eurozone and Greek banking officials insisted there was no full-scale run on the countries’ financial institutions.

アテネの銀行関係者によると、ギリシャの預金者は5月14日、15日の両日で銀行口座から推定12億ユーロを引き出した。だが、ユーロ圏やギリシャの銀行当局者は、金融機関での本格的な取り付け騒ぎは起きていないと主張する。

The Greek banking system could prove the weakest link in the country’s efforts to stabilise its finances until a government can be formed after new elections on June 17. Any signs of depositor panic could force eurozone leaders to make bailout decisions without an elected Greek administration in place.

6月17日の再選挙後に政府が樹立されるまで、銀行システムはギリシャの金融安定化を図る取り組みの中で最も弱い部分になる恐れがある。預金者にパニックの兆しが見られたら、ギリシャ政府が発足していない中で、ユーロ圏の指導者は重大な救済の決断を迫られるかもしれない。

The eurozone’s 440bn euro rescue fund, the European Financial Stability Facility, moved last month to shore up Greece’s banks by transferring 25bn euro in bailout funds to the country’s bank recapitalisation agency as part of the new 174bn euro rescue. The funds were released April 19, well before it was clear that Greeks would vote in droves against the terms of the bailout deal in the May 6 election.

4400億ユーロ規模のユーロ圏の救済基金、欧州金融安定機関(EFSF)は先月、ギリシャの銀行のてこ入れに乗り出し、銀行の資本増強を管轄するギリシャの機関に250億ユーロの救済資金を送金した。1740億ユーロの追加支援策の一環だ。資金が送られたのは4月19日。5月6日の選挙でギリシャ国民が大挙して救済策の合意内容に反対票を投じる前だ。

Those funds have not yet been sent to Greece’s four largest banks, however, because of negotiations between Athens and bank executives over how much control the government will have in exchange for the influx of cash. Greek officials said the money should be distributed by the end of the week.

だが、この資金はまだギリシャの四大銀行に渡っていない。現金注入と引き換えに政府がどれほど支配権を持つかを巡り、ギリシャ政府と銀行幹部が交渉していたためだ。ギリシャの当局者は、救済資金のうち180億ユーロは週末までに分配される見込みだという。

In a sign of how concerned eurozone officials have become over the financial health of Greek banks, however, the European Central Bank stopped providing cheap loans to some of banks to fund their day-to-day operations because of the recapitalisation delay.

一方で、ユーロ圏の当局者がギリシャの銀行の財務の健全性に懸念を深めている兆候がある。欧州中央銀行(ECB)が資本増強の遅れを理由に、一部の銀行に対して日常業務を賄うための低利融資の供給を止めたのだ。

At present, Greek banks cut off from the ECB’s normal funding operations get back-up funding from Greece’s own central bank, a process known as “emergency liquidity assistance” or ELA. But even those funds are subject to ECB governing council approval, and the ECB by law is not allowed to approve funding for insolvent banks.

現状では、ECBの通常の資金供給オペから締め出されたギリシャの銀行は、ギリシャ自身の中央銀行から予備の資金供給を受ける。「緊急流動性支援(ELA)」として知られるプロセスだ。だが、こうした資金もECBの政策理事会による承認の対象となり、ECBは法律で、支払い不能状態に陥った銀行への資金供給の承認を禁じられている。

Without such “liquidity operations”, Greece’s entire banking sector would collapse, forcing eurozone governments to inject even more bailout money. If eurozone governments balked, Athens would be forced to begin printing its own currency.

こうした「流動性オペ」がないと、ギリシャの銀行部門全体が崩壊し、ユーロ圏の各国政府はさらなる救済資金の注入を余儀なくされる。ユーロ圏の政府が二の足を踏んだ場合、ギリシャ政府は独自通貨を印刷せざるを得なくなる。

As a result, a bigger than expected exodus of Greek depositors spooked by the prospect of their euros being turned into drachmas could quickly turn into a make-or-break decision for EU leaders, forcing the ECB or eurozone governments to approve additional funds without any assurances that a new government in Athens would live up to the terms of the new bailout aid. All told, the current bailout programme foresees 48bn euro going to Greek banks.

その結果、自分たちのユーロがドラクマに転換される可能性におびえたギリシャの預金者が予想を上回る規模で逃避すれば、欧州連合(EU)の指導者は運命を左右する決断を即座に迫られる恐れがある。その場合、ECBやユーロ圏の政府は、ギリシャの新政府から救済支援の条件に従うという言質を一切得られないまま、追加資金を承認せざるを得なくなる。現行の救済プログラムでは、全体で480億ユーロの資金がギリシャの銀行に渡る見込みだ。

Although the ECB is prohibited from continuing ELA funding to insolvent banks, it is unclear at what point Greek banks would be deemed insolvent. That gives the ECB considerable leeway to keep Greece’s financial system functioning, even in a political vacuum.

ECBは支払い不能状態の銀行に対しELAの資金供給を継続することを禁じられているものの、どの段階でギリシャの銀行が支払い不能と判断されるのかは明白ではない。このためECBには、政治空白の最中でも、ギリシャの金融システムが機能し続けるようにする余地がある。

Senior eurozone officials involved in monitoring the region’s banking system said the outflow of deposits from Greek banks thus far were of a manageable scale and fell short of indicating panic. A private banker based in Athens said outflows continued at a slower rate on Wednesday: “We were getting more phone calls from customers today asking for advice but fewer withdrawals.”

地域の銀行の監視に携わるユーロ圏の高官らは、ギリシャの銀行からの預金流出は対処可能で、パニックを示唆するほどではないと語った。アテネ在勤のあるプライベートバンカーは、16日は以前より緩やかなペースで預金流出が続いたとし、「今日(16日)は助言を求める顧客からの電話が増えたが、預金の引き出しは減った」と言う。

Officials at the Bank of Greece were not available for comment but there was anecdotal evidence that the banking system was beginning to show strains.

ギリシャ銀行(中央銀行)の当局者からはコメントを得られなかったが、銀行システムが疲弊し始めたことを示す断片的な証拠がある。

Bank customers in Maroussi, a business and residential district in Athens, said several branches had run out of cash by midday. “You now have to place an order the day before if you want more than one or two thousand euros,” said a restaurant owner.

アテネの商業・住宅街マルーシ地区にある銀行の顧客は、いくつかの支店で昼までに現金が尽きたと話している。「今では、1000ユーロ、2000ユーロ以上のお金を引き出したければ、前日に注文を出しておかなければならない」と、あるレストラン経営者は言う。

“It’s manageable for the moment but the system has become very leaky,” said another Greek banker.

また、あるギリシャの銀行関係者は「今のところ対処はできるが、銀行システムは極めて資金が漏れ出しやすくなった」と指摘した。

Charles Dallara, head of the Institute of International Finance, a global consortium of major financial groups, said on Wednesday that Greece’s exit from the euro would cause Athens to default on all its liquidity loans from the ECB, forcing a massive recapitalisation of the central bank.

世界的な金融機関の団体である国際金融協会(IIF)のチャールズ・ダラーラ専務理事は16日、ギリシャがユーロから離脱すれば、ギリシャ政府はECBから受けている流動性融資を全額デフォルト(債務不履行)し、中銀は莫大な自己資本増強を余儀なくされると述べた。

“We would have a collapse of the Greek banking system, even more than we have today,” Mr Dallara told a conference in Dublin. “I read that Europe was prepared for a Greek exit, that the markets had priced this in. Far from it. Who in Berlin, who in Frankfurt, who in London has priced in a wiping out of the capital of the ECB?”

「ギリシャの銀行システムは今以上に大々的に崩壊するだろう」。ダラーラ専務理事はダブリンで開かれた会議でこう語った。
「欧州はギリシャ離脱への備えができており、市場は離脱を織り込んだという記事を読んだ。とんでもない。一体ベルリンの誰が、フランクフルトの誰が、ロンドンの誰がECBの自己資本が吹き飛ぶ事態を織り込んだのか?」

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