再度の原油100ドル超えは時間の問題か

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投資のイメージ

去る28日、ニューヨーク・マーカンタイル取引所(NYMEX=New York Mercantile Exchange)で取引される3月限月のウェスト・テキサス・インターメディエート(WTI=West Texas Intermediate)原油先物価格が前日比で一気に3.85ドルも急騰し、89.49ドルで取引を終えた。

60ドル台まで落ち込んだ半年前に比べればずいぶんと上昇したものである。

この原油価格の上がり方はBRICsを始めとして世界株高に沸いた2007年を彷彿とさせるものがあるが、チュニジアの政変に始まった中東情勢の不安定さがこのまま続くようだと、原油価格は再び100ドルの大台を突破し、2008年上期のような急騰が再来すると予想されている。

フィナンシャルタイムズ紙によれば、国際エネルギー機関(欧米諸国)がOPECに対して原油価格の沈静化を要請したことに対し、アブドラ・サレム・バドリ事務局長が投機家(speculators)を非難して原油の増産要求を突っぱねたとあるからだ。

ほとんどの中東諸国が非民主国家であることから、こうした民主化要求が広がりを見せる可能性は十分にあり得る。
これが中国なら平然と武力鎮圧しろと言い、政権側に武器や金まで授けるのだろうが、欧米を始めとする西側諸国は民主主義を正義としていることから、政権側とどれほどずぶずぶの仲になっていても、石油のために市民のデモを力ずくで鎮圧しろとは口が裂けても言えまい。

それにエジプトのムバラク政権が仮に崩壊した場合、その受け皿の一つが、世俗法によってではなくイスラム法(シャリーア)によって統治される、イスラム社会の確立を目標としている「ムスリム同胞団(Al-Ikhwan/Muslim Brotherhood)」と言われる。

これではエジプトがトルコのような穏健なイスラム国家になるどころか、1990年代のアルジェリアのように血なまぐさい内戦が起こることになるだろう。
このように独裁政権が崩壊すれば万歳とは言い切れないところに中東の難しさがある。

いずれにせよ、今年の上期はエジプトが国際金融市場を揺さぶり続けるのは間違いないだろう。
日本のメディアは今のところ単なる中東の政変劇という視点でしか記事を配信していないようだが、円高ドル安によって原油高の衝撃を吸収できる間はいいが、為替が円安ドル高に振れれば国民の悲劇はリーマンショックが襲う前だった2008年上期の比でないだろう。

私に言わせれば、2008年のリーマンショック以降の円高原油安を奇貨とするべき(2008年10月26日「円高、原油安は日本にとってグッドニュースではないのか」)だったと思うのだが、今からでも円安原油高に備えた政策を取るべきではなかろうか。

また、そういったことは日経新聞を始めとする主要メディアの経済面に書かれていて然るべきではないのか。

しかし、私が2007年7月6日「スタグフレーションの足音が聞える」2006年7月30日「原油高で家計直撃!?」2005年12月23日「第三次石油ショックを防ぐためか?」で書いたように、国民がパニックを起こすのを防ぐために官僚とマスコミが示し合わせてわざとやっているとしか思えない、というのが現実だろう。

それに経済に疎いなどと公言するような菅直人首相には霞ヶ関の官僚だって愛想を尽かして非公式な情報を上げようとは思わないだろう。

事実、27日にS&Pが日本国債の長期格付けを「AA」から「AAマイナス」に引き下げたことについても首相は、「初めて聞いた。本会議から出てきたばかり。そういうことには疎いので、改めてにしてください。」と言ったと報じられた。

ほとんどの人は「(経済に)疎い」というところに論点がいってブログやツイッターで首相を血祭りに上げていたようだが、私は首相が「(本会議後に)初めて聞いた」ということも大いに問題だと思う。

また、日本国債の格下げを受けて債券市場では国債が売られて長期金利が上昇し、為替も対ドルレートで1円近く円安に振れた。また、日本国債の格下げを受けて債券市場では国債が売られて長期金利が上昇し、為替も対ドルレートで1円近く円安に振れた。

これが一時的な現象なのか、それとも橘玲氏のコラム「シミュレーション 20XX年ニッポン『財政破綻』」がいよいよ現実になろうかという前兆なのかはわからない。
いずれにせよ、2008年秋から続く円高局面がそろそろ終わりを告げるというサインにはなりそうである。

Oil near $100 level as Mideast tensions grow
By Javier Blas and Richard Edgar
(January 28 2011 Financial Times)
(中東の緊張が高まるにしたがって100ドル近くに達する原油価格)

Oil prices closed the week nearing the $100-a-barrel mark amid tension in the Middle East and stronger economic growth in the US.

原油価格は中東情勢の緊張と米国経済の力強い成長の真っ只中で1バレルにつき100ドルの水準に近づいて今週の取引を終えた。

But Abdalla El-Badri, secretary-general of the Opec oil cartel, said the market was well supplied and dismissed calls for a boost in the group’s output in spite of rising prices and mounting worries about the impact on global economic growth and inflation.

しかし、石油輸出国機構(OPEC)のアブドラ・サレム・バドリ事務局長は、市場には十分な供給がされていて、原油価格の上昇にもかかわらず、産油国への増産の要求は却下された。そして、原油価格の上昇が世界経済の成長とインフレに対する影響を懸念していると言った。

ICE March Brent, the global benchmark, rose on Friday to a peak of $99.63 a barrel, up 2.1 per cent on the week and the highest level since late-2008.

金曜日、国際指標である3月限月のICEブレント原油先物価格は1バレルにつき99.63ドルまで上昇した。この週は2.1パーセント上昇と、2008年後半以来最も高いレベルであった。

Nymex March West Texas Intermediate rose to $89.73 a barrel. The price of the US benchmark has dislocated from the rest of the US and global oil market due to rising inventories at the key pipeline hub of Cushing, Oklahoma.

ニューヨーク・マーカンタイル取引所(NYMEX=New York Mercantile Exchange)で取引される3月限月のウェスト・テキサス・インターメディエート(WTI=West Texas Intermediate)原油先物価格は、1バレルにつき89.73ドルに上昇した。この米国指標価格は、オクラホマ州のクシンにおける在庫の上昇によって、米国のその他の価格と国際原油価格を左右し続けている。

The price difference between Brent and WTI reached an all-time high of more than $12 a barrel this week. The spike on Friday came as traders bought the commodity after unprecedented unrest in Egypt.

ブレントとWTIの価格差は、今週、1バレルにつき12ドル以上の空前の高さにまで達した。金曜日の価格の突然の急上昇は、トレーダーたちがエジプトのかつてない騒乱の後で商品を買ったために起きた。

Although the Arab country is a small oil producer, traders were worried because it is an important gateway for Middle East oil through the Suez Canal and the 200-mile long Sumed pipeline, which connects the Red Sea and the Mediterranean.

このアラブの国が小規模の産油国であるとはいえ、トレーダーたちはそこが紅海と地中海を結ぶスエズ運河と長さ200マイルのスメド・パイプラインを通じて中東原油の重要な出入口となっているため心配したのだった。

The closure of either or both choke-points would divert tankers around the southern tip of Africa, adding 6,000 miles to transit. According to estimates by the US Department of Energy, both gateways saw oil flows of 2.1m barrels a day in 2009, the latest data available.

いずれか一方、あるいは双方の要衝の閉鎖は、タンカーを6,000マイル多いアフリカ南端を迂回させることになるだろう。米国エネルギー省による推計によると、利用できる最新のデータとして2009年に双方の出入口を通った原油の流通量は1日当たり210万バレルに達していることが確認できた。

“I think people are keeping an eye right now on Cairo,” said an executive at one of the top oil trading houses.

「私は、人々は目下のところカイロに注目していると思う」と、あるトップ石油商社の役員が言った。

Traders are also concerned that political protests could spread to other Middle East countries that are more important to global oil markets such as Saudi Arabia. The spike in oil prices towards $100 has raised concerns about its impact in global economic growth and inflation.

トレーダーたちは、政治的な抗議がサウジアラビアのような世界的な原油市場にとってより重要である他の中東諸国にまで広がる可能性が出てきたことを心配している。100ドルに迫る原油価格の急上昇は、世界的な経済成長とインフレの影響に対する懸念を高めた。

The International Energy Agency, the western countries’ oil watchdog, has asked Opec to boost supplies and bring down prices.

西側諸国の原油監視機関である国際エネルギー機関(IEA)は、OPECに供給を促進して、価格を下げるよう依頼した。

Mr El-Badri said he saw no fundamental supply-and-demand reason for oil prices moving above the $100 a barrel and blamed speculators instead.

エル・バドリ氏は、1バレル100ドルを上回って動く原油価格の基本的な需要と供給の理由がないことを見て、その代わりに投機家を非難した。

“People [are] borrowing money and instead of investing in productivity, they invest it in all commodities,” he told the Financial Times in a video interview at the World Economic Forum in Davos.

エル・バドリ氏は、「人々はお金を借りて、生産性に投資する代わりに、それをすべての商品に投資する」と、ダヴォスの世界経済フォーラムのビデオインタビューの中でファイナンシャル・タイムズに語った。

Mr El-Badri said the cartel’s current production and inventories were enough to supply the current demand. But he repeated that the cartel will respond to physical shortages.

エル・バドリ氏は、OPECの現在の生産と在庫が現在の需要に応じるには十分であると言った。しかし、彼は実需に不足しているならOPECはそれに応じると繰り返した。

“If we see that there is an imbalance in the market, Opec will act. It is not our interest to see an imbalance.”

「我々は市場に不均衡が生じているのを確認すれば、OPECは行動するだろう。我々は不均衡を確認することには関心がない。」

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